夕立の磯子駅バスターミナルで戦争が楽しかったという老人に会った話

多分わたしはまだ10代だったような気がするのですが、いや20代になってたのだろうか?

学生だったのか、社会人だったのかも思い出せないけどだいぶ昔の話です。

JR磯子駅前のバスターミナルでバスを待っていました。

夏の夕方で、今でいうゲリラ豪雨、当時はただのスコールという名前だったような、とにかく通り雨がザーッと降ってきたのでした。

屋根付きのバスターミナルでしたので、特に慌てて傘を用意することもなく、すごい雨だなぁと思いながらボーっとバスを待っていました。

隣で同じバスを待っていた老人が突然言いました。

「こんな雨の日は南の島に戦争に行っていたときのことを思い出すなぁ」

南の島は具体的な島の名前だったかもしれませんが忘れました。

「戦争ってひどいもんだとかいうけどさぁ、仲間もたくさん死んだんだけどさぁ、楽しかったんだよなぁ」

子供の頃から戦争はいけないものだと教えられて育ってきた私には衝撃的な言葉でした。

祖父は幼い頃に他界していたし、祖母は可愛い孫の私には世の中の不幸なことについて一切触れさせたくない感じで猫かわいがりだったし、両親は戦後生まれです。

戦争について実体験として耳にしたのは広島へ修学旅行に出かけたときの語り部さんのお話くらいでした。

酷い経験、悲しい経験として受け取ってきた戦争。

過去の経験や歴史から学ぶとしたら、二度と戦争はしないということだというのが教科書的に正しい答えのように考えていましたし、今もそう思っています。

名前も素性も知らないその老人は、もしかしたら酔っていたのかもしれないし、現実と非現実の合間を漂っている人(一言でいえば痴呆)なのかもしれない、と思うほど、戦争が楽しいというのは想定外な言葉でした。

私はなんて返事したんだろうか、思い出せません。

「はぁ、そうなんですか」

とかなんとか間抜けな返事をしたんだと思います。

ただ、とんでもなく貴重な気がしていたので、興味がなかったり怪訝そうにみえないように気を使ったような気がします。

当時ものすごくヤングだった私ですので、間抜けに「はぁ」的なこととしかいえませんでしたが、多分今同じことが起きても「はぁ」とかって間抜けなお返事しかできないんだろうなぁ。

今思えば色々なお話を聞いておけばよかったです。

そして自分が年を重ねて若くなくなって思うのは、彼が言う楽しかったというのは戦争のことではなく、若さが楽しかったんじゃないかと。

彼の若くて楽しい時分の記憶が、たまたま南の島の戦場だっただけなんじゃないかと。

あれからだいぶ経っていますので、あの老人はきっともう南の島で一足先に天国に行った仲間たちと再会しているのかもしれません。

彼がスコールの度に南の島の戦争のことを思い出すように、私もスコールの度に彼のことを思い出してしまいます。

きっとたまたま隣にいたボーっとしたおねえちゃんがオバサンになってもこんなこと思い出すなんて考えてなかったろうなぁ。

それとも、誰かに覚えていてほしくて語ったのかなぁ。

私も、その昔、磯子駅にそんなおじいさんがいたことを誰かに知って欲しくて書きました。

終戦記念日を過ぎてしまいました。

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